1 概要
猪苗代の白木城に庄右衛門という杣人が磐梯の山に入った時,巌の上の大松の前に,荷にやら白く長い物が見えたので松の木に上り降ろしてみると,長さ七,八尺(約210~240センチメートル)もあるかもじであった。このかもじは白いこと雪のようで,毛の太さも馬の尾のようであり,人間の髪の及ぶところではない。家に持ち帰り多くの人に見せたが,これが果たしてなんだか分からない,山姥のかもじであろうと伝えた。
世に言う山姥は南蛮国の獣で,その形は老婆のようである。腰に皮がありそれが前後に垂れ下がり,まるでふんどしのようである。人を捕らえては自分の住処に連れて行き,強いて夫婦の語らいを求めるが,自分の心に従わない場合にはその人を殺す。力が強く,丈夫の敵ではない。
また,好んで人の子供を盗むが,これを知った盗まれた人は,人を大勢集めて山姥が我が子を盗んだことを大声で罵り辱める時は,山姥はひそかに子供を連れてその家の傍らに捨て置いて帰るという。
山姥以外にも,山中には「客容」,「彭候」,「山夫」,「山女」,「狒々」,「野婆」,「黒青」の類がいる。この他には「山獺」という獣もいる。その肉は補益の効能があるが,これを捕らえるのは難しい。
猟師は山獺を捕ろうと,美女を連れて山中に入り,美女を大木の下に立たせておく。山獺は美女の気配をかいで一目散に出てくるところを,美女は走り逃げ出す。山獺はその木を抱いてもだえあげくが,その木はたちまち枯れるという。猟師はその隙に鉄砲で撃ち殺すという。
2 解説
白木城は耶麻郡猪苗代町蚕養付近の地名で,恐らく磐梯山に入山したのではないかと思われる。
また,江戸時代には,山姥や狒々のようなメジャーな妖怪以外にも,上記のような妖怪が山に棲んでいると考えられていた点は興味深い。