１ 概要
私（話者のこと。四十雀ではない。）の父は山仕事をしたり，狩場が非常に好きで，水引の奥に鱒沢という沢に泊まり狩場にしていた。
ある春先，幾人かで熊捕りに行ったところ，一日中雨に遭い，なんとも出ることができなくなり，山から雪崩が落ちそうなことや，何やら変に感じることもあり，小屋でゆっくり休むこととし，朝食後，皆で小屋で寝転び話をしていた。
すると，小屋の入口から，三，四歳くらいの大きさの子供が小屋の中に入って来た。小屋の皆は，確かに入って来るところは見たのだが，中に入って来たと思ったら姿がすぐに見えなくなり，そうすると体が縛られたように動かなくなり，父に言わせれば，なんというか，ぐるぐるに縛られたように体が動かなくなり，なんとかして体を動かしてみたいと思い，一生懸命に努力したら，足が伸びて燃えていた木に届いた。そうしたら，何本かの木が倒れたようで音がしたようだった。
すると，子供が出口の方に逃げて行き，その姿を皆，やはり見たという。皆は小屋の外に出てみたが，子供はどこに消えたか分からなかったという。
皆は目が覚めたようになり，こんな恐ろしいことはないと，体中汗びっしょりであった。
そして，こんなことがあったのだから，帰った方が良い，ということになり，その晩は小屋に泊まり，翌日狩りをやめ帰って来た。
２ 概要
上記の「水引」とは，南会津町にある「水引集落」を差すと思われる。同集落は現在も藁葺き民家の残る自然豊かな場所である。
また，「鱒沢」は同地を流れる「鱒沢川」を差すと思われる。
今回の話は，山中で怪異に遭遇し金縛りに遭ったという話のようである。山中ではこのような怪異に遭いやすいのか，狩りをする者を含めた，山中での作業を生業とする者の間には，かつてさまざまな禁忌が定められていたのが，それを裏付ける。
ところで，今回現れた子供の正体はなんだったのだろうか。山の神様なのか，怪異なのか，真相は不明である。
