1 概要
会津の金山谷に,沼沢の沼という大沼がある。この沼の底の深さは測ってはならない,そして,この沼には沼御前という主がいると伝わる。
正徳3年(1713年)5月,金山谷の三右衛門という漁師が,この沼へ暁がけで鴨撃ちに行くと,向こう岸に20歳ばかりの鉄漿をした女性が腰より下を水につけていた。よくよく見ると,その髪の長さは二丈(約6メートル)もあった。
これは不思議な者と思い,三つ玉を鉄砲に込めて狙い済まして撃つと,玉は女の胸板を撃ちぬくと同時に,女は沼に倒れ沈んでいったが,たちまち水底が大雷電の如く鳴りはためいて,波荒く岸を洗った。
また,雲は暗くなり,さしもの大沼の水も虚空に湧き上がり,水玉飛び散り,その水煙が天地を覆い真っ暗になった。
三右衛門は大いに驚いて急いで我が家に逃げ帰るのと同時に,外は大雷大風大雨が三日三晩の間やまず,金山谷は真っ暗になった。
諸人は大いに驚いて,これはただ事ではないと大いに恐れおののいた。その後,雨はやんだが,三右衛門の身の上には何事もなかったという。
2 解説
大沼郡金山町にある沼沢湖にまつわる話である。同湖には蛇の主も存在したといわれており,様々な妖怪が集まりやすい場所なのかも知れない。
令和2年5月6日追記
今回、沼沢湖の写真を撮影したので追加掲載する。
沼沢湖は山間部にあるカルデラ湖である。景観は美しいが、ひとたび風が吹くととても肌寒く感じた。
なお、湖水浴も可能であるが、過去、事故で亡くなられた方もおり、注意が必要である。