1 概要
平の町は盆踊りが盛んで遠くから人が集まり,一晩中じゃんがら念仏を踊り明かしていた。
ある踊りの時のこと,輪になり踊る中に,一人の若い女性が特に人目を惹いていた。その女性は派手な着物を着ていて,手拭を被り顔は分からないが,柳腰で姿形がとても美しかった。
踊りが終わるとその女性は帰っていったが,その後を三人の若者が追いかけていき,「娘さん,いい踊りだったね。」と声をかけた。
女性は「褒めてくれたのかい。」というと,若者達は「そうさ,平の町にも,あのように品よく踊れる女性はいないよ。」と言った。
女性はさらに,「そうかい,そんなに褒められると何かお礼がしたいね。でも,生憎今は何も持ち合わせがないのでね。」と言うと,若者達は「そんなら娘さんの体でもいいぞ。」と言った。
それに対して女性は「それならお安いことさ,一人ずつおいでよ。」と言い,草むらに入っていったので,若者達も一人ずつ入っていった。
別れ際,若者達は,「暗くて顔が分からなかったが,一目見せてくれないか,また会いたいから。」と言うと,女性は被っていた手拭を取った。女性の顔はのっぺらぼうで,ただおはぐろをつけた口だけがついていた。
これを見た若者達はふるえだしその場から逃げ去った。この話を聴いた町の人達は,おはぐろをつけているところを見ると,そののっぺらぼうは誰かの女房だろうと首をかしげたという。
2 解説
のっぺらぼうは外見は人に近いが,目,鼻,口のない妖怪で,伝承としては,狸や狐,狢など人を化かす伝承のある動物がその正体とされることが多い。
また,のっぺらぼうに類似する,目,鼻,口のない妖怪はその他いくつか存在しているようである。