1 概要
明治時代の初めのこと,会津地方に,先祖の寺詣でなどをしたことのない,不信心な男がいたという。
ある時,その男の母親が死去したので,寺で葬式をすることになり,男は初めて,山門をくぐることになった。
母親の棺が山門をくぐり,その背後から男が潜ろうとしたところ,突然,山門の上から太い腕が現れて,男の襟首をつかみ吊り上げた。
男は足をばたつかせ降りようとするが,結局,葬式が終わるまで吊るされたままでいた。
男を山門からもぐらせないようにしたのは「おとろし」というもので,あの男は不信心なのでおとろしが嫌ったのだ,と噂がたった。
2 解説
おとろしは,鬼と似ているが顔も体も赤く,金棒を持たない妖怪とされており,絵巻物などでその姿を確認することができるが,それらには解説がなく,また,民間伝承を記した書物などもないため,具体的にどのような妖怪なのか不明である。
現在では,上記のように,神社などで不信心者や不心得者などを見つけると,突然上から落ちてくると解説されているが,これは,鳥山石燕が書いた「図面百鬼夜行」に描かれたおとろしの絵が,鳥居の上に乗っている姿から想像した創作であるとされている。