1 概要
妖怪の中では全国的に知名度が高いと思われる雪女は,地方により,「ユキムスメ」,「ユキオナゴ」,「ユキジョロウ(雪女郎)」,「ユキオンバ」,「ユキンバ」,「ユキフリバ」(「バ」は「婆」を指すもののようである。)とその呼称も様々である。
その姿については,多くの場合,死を意味する白装束を纏う,若く美しい娘として描かれている(無論,上記のとおり「婆」の姿もいるのであろうが。)ことが多いようである。
また,雪女にまつわる話というものは,
①小泉八雲の「怪談」のように,山で命を助けた男と,自身の素性を隠し夫婦になるものの,やがて,男が命を助けた際に雪女とした「決して雪女と遭遇したことを口外しない」約束を破ったため姿を消すという話
②冬場,旅装束をした雪女が訪れた家にて,家人に体を温めるよう風呂を勧められ,仕方なく風呂に入るが,いつまで経っても風呂から出てこないのを心配した家人が見に行くと,雪女は溶けて氷だけが浮いていたという話
という,哀れな展開となる話が多いが,基本的に雪女とは,男に冷たい息を吹きかけ凍死させ男の精を吸い尽くして殺すという畏怖すべき存在と認識されている。
2 解説
福島県は東北地方に該当する地区であり,さぞ雪女に関する話が多いかと考えていたのだが,意外にも私が手持ちの資料には雪女に関する記述が存在していなかった。
それでも,調べていくうちに分かったこととしては,
A福島県磐城地方では,雪女の呼びかけに対し返事をせず,背中を向けたままにしていると谷底に突き落とされる(なお,同地では「ユキジョロウ(雪女郎)」と呼ばれている模様)
B会津地方の雪女は産女の姿で現される
ということが判明した。
上記Aについては,現在のいわき市ではなく,より広範囲な磐城国(現在の福島県浜通り地方,中通り地方の南部)を指すのではないかと思われる。
いわき市も山間部に行けば確かに雪は降るが,雪女が出るような感じになる程雪が降り積もる訳ではない。
反面,磐城国と考えると,相馬市や東白川郡も含まれ,これらの地方(特に東白川郡)はそれなりに降雪量があるためである。
また,上記Bについては,会津地方に産女に似た存在の妖怪「おぼ抱き」に関する話が多く残る土地である。
ここで言う産女はこのおぼ抱きで,そして,産女(おぼ抱き)と雪女が同一視されていたのではないかと推測される。
なお,産女と雪女が同一視される話は他県にもあるようで,子供(雪ん子)を抱いた雪女が,吹雪の晩に通る人に子供を抱いてくれると頼んでくるといい,その子供を抱くと,子供がどんどん多くなり,やがて抱いた人は雪に埋もれて凍死するのだという。
雪女に関する話については今後も調査していく予定である。
最後に,雪の中に現れる妖怪というものは,雪女を含め,総じて一本足であるとする説もあるとのことである(一本足の妖怪というと,「一本だたら」を連想するところである。ただし,一本だたらが福島県に現れたという話は残念ながら聞いたと