1 概要
下松本,横内集落両方の山間に,不動尊を祀るお堂が建立されている。傍らには清水が流れ,お堂内の安置された不動明王像は唐金製で,日本三大不動様の一つに数えられている。
昔,この不動様を,北郷方面の者が参拝に来た時,風呂敷に包んで盗んだという。人々はそれとは知らずにいたが,やがて,清水が流れる量が少なくなるのと,この清水に棲んでいるとされていた,目に見えない鰻が浮かび上がるようになると人々は驚き,お不動様にお参りに行くと,お不動様の姿が見えないことが判明した。
住民達は騒然となり,年寄りの女性達がわか様に聞きに行くと,お不動様は盗まれたので七天王様をお参りせよ,また,東方に火難があるから気をつけるように言われた。
一方,盗んだ者の家では大切に宝物にしていたが,ある夜,盗んだ者が床につくと,家の隅々が燃えたので飛び起きたが,実際は何も燃えてはいなかった。この晩は結局一睡も出来ず夜が明けたという。
この人は,盗んでみたものの恐ろしくなり,結局他人に売り渡した。そして,買った者も,宝物として大切にしていたが,やはりその者も悪夢や火災に遭う夢ばかりを見て,結局,お不動様を横内のお堂に収めようとしたが,横内までは行かず,白子と横内の中間の大杉の下に置いて逃げ帰ったところ,その大杉が真っ赤に燃え,火の明かりで逃げていく後ろ姿がよく見えたという。
また,別の集落では,この火事を見て駆け付けて来たところ,大杉の下には,お不動様が横内の方を向いていたという。
2 解説
現在でも,仏像等を盗み出す事件が発生しているようだが,上記のように,悪夢等を見て深く反省し,元の場所に戻すという事例があるやに聞いている(なお,上記のお不動様が現存しているかどうかは,残念ながら不明である。)。
なお,上記に出てくる「わか」は別稿に記載のとおりである。
人々は,このような困りごとが起きた場合に,託宣を受けていたことが分かる話である。