1 概要
郭内本二ノ丁桂林寺町通り南側西角に,笹原與五兵衛という侍がおり,この者には,同じ丁の少し上に,笹原伝右衛門という従弟がいた。
伝右衛門がある夕方少し過ぎに家に帰ろうと,二ノ丁北側を通り桂林寺通りまで来て,それから自分の家に入ろうとして後ろを振り返ると,桂林寺町通り北の方三ノ丁辺りから,余り高くも飛ばず,大きさは小丸提灯ほどの火の玉が来た。始めは提灯かと思ったが,提灯にしては地面から高いし,高提灯かと思ったが高提灯よりは低い。
次第にこちらに飛んできて,鈴木雲悦の家の前からどこかへ行き見えなくなった。
伝右衛門は再び家に入ろうと門内に足を踏み入れたところ,急に後方から光が差してきたので振り返ると,お厩前の通りの川中から光が出て,始めは縄をたぐった様に小さく丸く見え,空へ少し上がると縄をほぐしたように長くなり,余り高くもなく宙を飛び西の方へ行き,與五兵衛の家の前を飛び過ぎ,少し下の方,木俣喜太夫の家隣の鈴木雲悦の屋敷前通りに行くと,横に飛んでいた火は,縦になり始めのうちはふらふら登っていたが,2,30間(約36~54m)も登ったかと思うと急に速くなり雲間に消え失せ,真の闇になった。これは陰火というものなのか,と語ったという。
2 解説
様々な通りの名前が出てくるが,この光りものが現れたのか郭内のことである。様々な通りの前をふらふらと飛んでいたことが推測される。
この光りものはいわゆる「火の玉(人魂)」の類のものであると思われる。火の玉の正体は,よく人体から出るリンが燃えたもの(土葬が普通だった当時,その遺体からリンが出た。)と言うが,川の中から現れたり,また,2,30間という高さまで飛ぶのか,興味深いところである。