1 概要
ある日の夕方,中神谷の馬方が馬を引き連れて近くの川に出かけ,一日働き続けた愛馬を洗おうと川辺に近付いたところ,馬は急に何かに驚き,手綱を付けたまま逃げ帰ってしまった。
馬方は怪訝に思い,自宅へ戻り馬小屋を見ると,今度はいつもあるところに馬桶がない。あちこち探したところ,自宅裏の竹薮に伏せてあったのを発見し,誰の仕業か思いつつ桶を起こすと,その中に河童が身を縮めていた。川で馬を驚かしたのも,馬桶を持ち運ぶ悪さをしたのもこの河童だった。
馬方は,
「憎い河童め。」
と殺そうとしたら,河童は,
「これからは悪さをしません。」
としきりに詫びる。馬方も哀れに感じて,そのまま許してやった。その助命により,以来,中神谷では河童にとられる者がいなくなったと伝わる。
2 解説
中神谷とは「いわき市平中神谷」を指しているようである。
そして,上記の話に出てくる「近くの川」というのは,恐らくいわき市内を流れる夏井川を指すのではないかと思われる。夏井川は比較的大き目の河川のため,河童がいてもおかしくないのだろう。