1 概要
猪苗代の木地小屋の人達は,深山に分け入り椀等の木地を挽き,城下等に売り出していた。
この木地小屋の男が,山に行き木地を拵えていると,夜中過ぎ頃,小屋の上で何者かがドダガダとさせる。不審に思い外に出てみるが怪しいものは見当たらない。
夜が明けて家に帰り,昨夜はこんなことがあった,と語ると,家の者はもうそんな恐ろしい所には行くなと止めたが,この者はさして気にもとめずまた出かけた。
しかし,2,3日しても帰らないので家の者が心配し山の小屋に行くと,男は舌を引き出されて死んでいた。誰の仕業だろうか,この者は,この間の夜のことを他の人に話したため,舌を抜かれたのだろう。
今はこの所を魔所といい,木地挽達はいかない。
2 解説
森林資源の豊かな会津地方には,昔は多くの木地師が山中で木椀等を作成していた。そうした方々が恐れた魔所が存在したのだろうが,この話だけではどこなのか,分からないのが残念である。
なお,「木地小屋」は,通常木地師の住んでいた小屋を差す(木地師は山中に小屋を建てて生活し,周囲の木が無くなると別の場所に移動する生活をしていた。)が,猪苗代町には「木地小屋」の地名が今に残されている。