1 概要
磐城第一高校の隣にアパートがあり,そこにはある姉妹が住んでいた。
姉妹のうち,妹の甲子さんには多少の霊感があったのだが,その甲子さんが日頃気にしていたのは,夜,仕事を終え帰宅する際に,いつも遅い時間にも関わらず,高校のバレエ部の部室の明かりが点灯していることだった。
気になった甲子さんは,高校の用務員にそのことを説明したのだが,それでもやはり,明かりが点灯している時があったのだという。
また,高校だけではなく,自宅のアパートにいる時は,どこからともなく「コツコツ」と,まるで,丑の刻参りで藁人形に五寸釘を打ち込むような,そんな怪音が聞こえていたという。
ある日のこと,甲子さんはいつものように夜,車でアパートへ戻り駐車場に停めた瞬間,目の前に髪の長い女性が電信柱の蔭から覗くような半分の状態で立ちはだかる姿を目撃したという。
驚いた甲子さんは,車のエンジンを切らずに部屋に飛び込み,姉に車のエンジンを切るようお願いする程動転していたという。
この体験から数日後,甲子さんはアパートに一人でいなければならないことになり,そこで,知人のA子さんに一緒にいてもらうことにした。
二人は部屋でビールを飲みながら過ごしていたというが,夜8時か10時を過ぎたくらいのこと,突然,お風呂場からお風呂マットをタイルで擦るような「キュッ,キュッ」という音が聞こえてきたという。
気味が悪くなった二人はお風呂場を見るが,お風呂マットは風呂板の上にあり,物理的にそのような音を出せる状態にはない。
しかし,再び部屋に戻りしばらくすると,お風呂場からまた「キュッ,キュッ」という音が聞こえてくる。気味の悪さに耐え切れなくなった甲子さんは,「もうやめてよ!」と叫び声をあげたが,不思議なことに,お風呂場の音は,甲子さんの叫び声に呼応するかのようにその音をあげ,黙っているとその音も低くなったという。
後日,甲子さんのことが心配になった彼女の姉は,地元でも高名な霊媒師を連れてきた。その霊媒師の見立てでは,アパートには三人の幽霊(男二,女一)が憑りついており,霊媒師の説得で男二人の幽霊はもう悪さはしないと納得したが,女の幽霊は悪霊化していたのか,「この土地は自分の物だ」と頑なに拒否,霊媒師でもどうすることができない状態だったという。
そして,甲子さんの調べたところによれば,この女の幽霊とは,どうも隣の高校,例のバレエ部の部室で失恋が原因で自殺した女子生徒の幽霊であったという。
また,他の部屋の人にも聞いたところ,やはり同様の怪奇現象を体験していたのだという。
2 解説
この話は,私がいわき市に住んでいた平成19年から22年にかけて,甲子さんの友達であるA子さん,つまり一緒に怪音を聞いたという方から直接話を伺ったものである(なお,作中では「バレエ部」としたが,「バレー部」の誤りかも知れない。)。
同高校は昭和33年(1958年)開校で,上記のような自殺が発生したか,残念ながら調べる由もないが,当事者からの聞き取り話であり,信憑性はあると思われる。
そして,その後,この女子生徒の幽霊が成仏したか,残念ながら定かではない。