1 概要
米代辺りにある某屋敷のことである。
家人の某が外出し,夜になり屋敷に帰って来た。その際,昼間のうちに子供の守り脇差を座敷の次廊下に置いてある,女の乗り物の中に忘れていたことを思い出し,乗り物置き場も分かることなので,自ら灯りも持たず出かけた。
そして,乗り物の中に手を入れて脇差を取ろうとしたところ,熊の手のような手が,某の手をシカと掴んだので,某は自らの脇差を抜き,その手を傷付けたところ,某の手を放した。
某はすぐに勝手に行き,提灯を手に取り調べると,血は点々と滴り,庭の樅の木の上に及んでいたという。
また,この家では,吉兆ある時は,座敷の床の上に子供が立っていることがあるという。
それから,ある夜のこと,座敷に置いてある物が必要となり,召使いに取りにやらせたところ,上の間で人がちらりちらりと立ち回る影が見えた。これを見ると急に寒気がして,とても座敷に行くことができなかったという。
2 解説
この話では,某が怪異なるものに対して攻撃をして,その怪異なるものが手傷を負ったとある。その怪異なるものの血は人間のそれと同じようなものなのだろうか,興味深い。
また,この家では,上記の如く,吉兆ある際には子供が現れるという。東北地方によく多く現れるとされる,座敷童子の類なのだろうか。
そして,当時の屋敷においては,何らかの吉事・凶事がある場合に,それを示す何かがよく現れたものなのだろうか。不思議でならない。