1 概要
米代一ノ丁南側桂林寺通東角に、三宅源右衛門という300石取りの侍が住んでいた。
この源右衛門が部屋住の若い頃の事、長年使っていた召使いの女を寝所に呼び、情を交わし妾のようにしていたが、その後、媒酌する者がいて、この女を甲賀町通りに住む町家に縁付けた。
ところが、その女は、4,5日過ぎてから、源右衛門の寝所に現れ、枕を並べてまた以前のような関係になった。源右衛門も嬉しくて、いつまでも愛し合う等と睦言を交わしていた。しかし、日数が経つに連れ、夜毎に出かけてくることを怪しく思うようになった。
ある夜、いつものように彼女が忍んできた後で、源右衛門は密かに下男を彼女の婚家へ走らせ、様子を見てくるよう言いつけた。そして、下男が立ち帰り報告するのによると、彼女は囲炉裏端で糸引車を回し夜なべして、「この頃は忙しくご機嫌伺いにも参りませんが、旦那様はお変わりありませんか」と懇ろに申したという。
源右衛門はそれを聞くと頷き、寝所に引き返してみると、彼女は炬燵に当たり布団に顔を埋めうたた寝をしていた。源右衛門は狙いを定めて後ろから切りつけると、彼女はワッと言って部屋を飛び出し、東の庭へ駆け出た。源右衛門は提灯を点け探したが、夜のこともあり見当たらなかった。
翌日、東隣りの筒井氏の屋敷との境にある竹藪の中に、幾年経たのか分からない古貉が死んでいたのが見つかった。その切り口を見ると、毎晩通っていた女は、この貉の仕業であったと源右衛門は語っていた。
2 解説
上記の話をよく読んでいくと、「老媼茶話」においても、同様とまではいえないまでもかなり類似した話があることに気がついた。
「老媼茶話」は会津怪談録よりも成立が古いと思われる話なので、もしかするとこの話は、「老媼茶話」が下地になっている話なのかも知れない。