1 概要
ある日,六人の男達が鱒沢の狩場に行った時の話である。
その日は一日中雨に降られ,雪崩が起こる恐れもあるため猟に出れず,古い山小屋の中で寝転んで雑談していると,小屋の入口から三,四歳位の子供が小屋の中に入ってきた。その子供の髪は散らし髪で目深に被っていた姿をしており,そこまでは六人の男達に見えていたのだが,子供が小屋の中に入ると見る間に姿が消え失せていき,同時に皆,金縛りに遭い,どうにも身動きができなくなった。
うち,一人の男が体を動かそうと懸命に頑張ると,足が少し伸び,炉にくべていた薪に届き,薪が横に転んだ。
その時,怪物は再び姿を現して小屋から逃げ出して行った。
すると,皆,目が覚めたようになり,びっしょり汗を掻いており,誰が言うともなく,こんな恐ろしいことはないことだ,帰った方が良いだろうと言い合い,小屋を後にしたのだという。
2 解説
上記の鱒沢は,旧舘岩村(現南会津郡南会津町)を流れる「鱒沢川」のことを指すものと思われる。
山中には様々な怪異・妖怪の類がいるとされ,中には子供の姿かたちをしたものもいるとされる。正体こそ分からないが,上記の子供の怪物というのも,その類のものと思われる。