1 概要
少し古い時代の話である。
ある酷い雨の日のこと,いわき市の花屋が双葉郡富岡町に注文された花を届けに,妻を助手席に乗せてくるまで向かった。
届け物を無事に済ませて国道6号線を南下していたところ,木戸川に架けられた橋の手前付近に差し掛かった際,一段と雨が激しく降ってきた。
この橋の袂付近には一軒家があるのだが,花屋はスピードを落とし,その家の手前約20mぐらいの所に来た時,突然,傘を半開きにした女性が左側からぱっと飛び出してきた。顔は傘に隠れていたが,間違いなく女性であったという。
当然,車には「ドン」と何かが当たったような気がしたため,花屋は慌ててブレーキを踏んだが,確かに車に当たった気がするのに,その女性はそのまますぅっと車の前を横切った。
花屋ははっとして,ドアを開いて車の脇を見たが,雨しぶきの中には女性の姿など見えず,慌てて車を降りて雨の中を見回しても,やはり人っ子一人いなかった。
おやっ,っと思ったところ,突然花屋はズシンと頭の芯が痛くなり,また,ゾクっと寒気がし,車に戻るとさらに膝の辺りが固くなり,少しの間車の発進も出来なかったという。
なお,助手席に乗っていた花屋の妻も一部始終を見ていたといい,引いた,と思ったらしばらく声の出る状態になかったのだという。
2 解説
木戸川は双葉郡楢葉町を流れる鮭の遡上で有名な川であるが,同川に架かる橋(かつ国道6号線に該当する橋)とすると,「木戸川橋」が上記の話の舞台なのではないかと思われる(なお,現在の木戸川橋の竣工は昭和37年(1962年)のことであり,それ以降の話だと思われる。)。
さて,くだんの傘を挿した女性の正体は幽霊の類なのだろうと思われるところであるが,何故この地に現れたのか,そして今も現れるのか,そこまでは残念ながら不明である。