1 概要
笠石新田村にキツネ塚という字名があり,ここは昔,狐がたくさん住んでいた楢の木林であった。ここに中道という道があり,それが森宿村の耕道の入口の一本松に通じていた。
昔,この一本松を通ると,若く美しい娘が糸車に糸をかけ,くるくると糸によりをかけている。声をかけても知らんふりして仕事を続けているので,村の人々はきっと狐の仕業であろうということになり,村の猟師に鉄砲で退治をしてくれるように頼んだ。
腕自慢の猟師は月夜の晩を見計らい一本松に出かけ,頃合を見て火縄銃に弾を込めて娘の胸を狙いズドンと一発ぶっ放した。
しかし,弾は命中したが娘は顔を猟師の方に向けてケタケタ声を上げて笑い,なお仕事を続けていた。
猟師は次の夜も出かけ,昨夜と同じように娘を狙い撃ちするが,やはり娘はこちらを向いてケタケタあざ笑うのみであった。
翌日,村人にこのことを告げると,物知りの老人が,それではその娘の胸ではなく,糸車の大きいかなめを撃てと教えてくれたので,猟師はその夜出かけ,今度は娘の胸ではなく,糸車の中心に狙いを定めズドンとぶっ放したところ手応えがあり,ギャッという声と供に急にあたりが暗くなり,娘の姿は消えた。
翌朝,村の者と一本松に行くと,黒ずんだ血の跡があり,その跡を辿ると,キツネ塚地内の大きな楢の木の根元の穴に辿り着いた。
そこで,鍬で穴を掘ると,銀色の毛のふさふさした大きな狐が死んでいた。
2 解説
上記の話に出てくる「笠石新田村」は恐らく現在の岩瀬郡鏡石町笠石を,「森宿村」は須賀川市森宿を指しているものと思われる。
ただ,残念ながら「キツネ塚」の字名は確認することができないほか,「中道」や「一本松」も不明である(ただ,笠石新田村と森宿の位置から,中道とは現在の国道4号線に該当する街道のようにも思われる。)。
上記の話のように,狐や狸が人に化けたが,人の方を攻撃してもダメージを与えられず,その変わりに人以外の物を攻撃すると化けている本体にダメージを与えられる,という話は昔話の中にもよく見られるものである。