1 概要
鶴ヶ城の東一里(約4Km),天寧寺湯本(現在の東山温泉)に行く道に伏見ヶ滝がある。この滝のある川は,布引山から出ており,二弊地村,中湯川村を経て西北に流れ,湯本村を経て伏見ヶ滝となる。
滝の左には湯本へ行く道,南には小田麓山,北は羽黒山,滝の右は南の方五二里に連なり続く山々となる。この川は両山の間,岩の間から雌滝と雄滝の二つの滝となり流れ落ちる。二つの滝の高さは約三丈余り(約9m),幅五,六尺(約1.5m~1.8m)のものであった。
この滝の下は,夏毎に魚突きや網打ちに多くの人に集まる所であった。
ある時,某侍が下人を一人連れ,夕方から夜明かしするつもりで網打ちに出かけた。枯れ枝や枯葉を集めて焚き火の準備をし,網をうち続けたところ,魚もかなり採れたので,焚き火をして夕食を取るうちに夜も更けてきた。主従は眠気が差し,やがていつとはなく寝てしまった。
どのくらい時間が経過したか,眼を覚まし辺りを見ると,焚き火は消え,月も山に入り辺りは暗闇に包まれていた。仕方なく手探りで周囲を探して見ると,何か手に触るものがあるので,怪しんでよく探ると,何かが滝つぼから羽黒山の方に横たわっていた。そのものの太さは一抱えもあり,松の木に触るようにさらさらという感じがした。
某侍ははっと驚き,下人を呼び起こし,急いで火を打ちつけ木に移しているうちに,そのものはするすると羽黒山の方に登って行ってしまった。
二人は網も持ち物もそこそこに仕舞い,ほうほうの体で我が家に帰った。
後に考えると,それは滝つぼに住む大蛇が山に登ったのであろう,ということであった。
2 解説
上記の二弊地村,中湯川村,湯本村というのは,いずれも現在の会津若松市東山町の前身であった村のようである。
伏見ヶ滝というのは,阿賀野川支流の湯川にある滝で,東山温泉に存在しており,古くから伝説が多いことで知られているという。
その一つに,次のような話がある。
昔,あるところに「藤」という名の娘がおり,ある男に思いを寄せていて,恋が成就するよう滝の不動明王に願掛けしたところ,明王が現れ,「東山入口にある松の古木に石を投げ,その石が枝に留まり落ちてこなければ願いは叶う。」と告げたので,藤は何度も石を投げたがうまくいかず,悲観した藤はこの滝に身を投げたという。
やがて,滝は「藤身ヶ滝」と呼ばれ,いつしか「伏見ヶ滝」と呼ばれるようになったという。