1 概要
石崩には天狗様がいた。
夜,この付近で畑を耕していると,ドドトーン,ワリワリワリイと木を倒すような音がして,恐ろしく,鍬を投げて逃げてきたことがしばしば昔はあったものだ。
天狗様は常にこの山にいて,五月の田植えを見ては,百姓も素晴らしいものだ,二,三日中に皆,青田にしてしまった,と驚かれるという。
明治20年(1887年)頃,大慈院という法印が四倉浜に行き船祈祷をして夜に帰る時,石崩の下で天狗様に投げられたとして,青田の中で泥まみれになりオーイオーイと叫んでいたのを,通りかかった人がその声を聞きつけて行き,助けてあげたことがある。
また,荒神様にも天狗様がいた。吉太郎爺さんの話によれば,若い衆の時代のある年の七月の夜,ここで獅子舞の稽古をしている時,ワリイワリイと素晴らしい木が折れるような音がして,またはパカンパカンと大斧で木を削るような音がして,皆,驚き恐れて我先に逃げ出したとのことが三回ばかりある。昼間に行ってみても何のあともなく,天狗様の仕業であるといっていた。
なお,その時の宮番は旧笠間藩士で,夜は刀を抱いて寝ており,時折不思議なことがあったと話してくれた。
2 解説
上記「石崩」という名称が地名なのか山の名前なのかよく分からず,残念ながらどこの場所なのか特定はできていない。
また,荒神様については,「福島県いわき市水品字荒神平」付近,宮番もいたとなると,水品神社のことを指しているのではないだろうか。
山中を歩いていて,木の倒れるような音がすることを,地方により天狗の仕業と考え,「天狗倒し」と呼ぶ場所もある。これはまさに天狗倒しではないだろうか。
なお,上記中,「旧笠間藩士」がいたとあるが,話の舞台となっている地方{現在のいわき市北神谷付近)は,江戸時代には笠間藩の飛び地が存在していた場所である。