1 概要
柳田国男の「遠野物語拾遺」第268話には、「デンデラ野」の話が記載されている。これは、昔、老人は60歳を超えると「デンデラ野」に捨てられたといい、つまりいわゆる「姥捨て山」の一種のことである(なお、「遠野物語」第111話他では「ダンノハナ(壇の塙?)」という地名の場所の近隣には相対して「蓮台野」という場所があり、60歳を超えた老人はこの地に追いやる、とある。)。
捨てられた老人達は、そのまま死ぬ訳にもいかず、彼の地で生活をしていたという(日中は里に下りて農作をし、夕に戻る生活をしていたという。)。
このような過去のある地のためか、同地では老人の幽霊が現れる、すすり泣く声が聞こえる、心霊写真が撮影される、という噂が広まったという。
2 解説
「遠野物語」、「遠野物語拾遺」にある通り、「デンデラ野」、「蓮台野」は1か所だけではなく、当時存在していた村々に複数個所存在していたようである。岩手県遠野市は山間部にある場所であり、農業が発達していなかった時代(遠野物語の時代観は江戸期~明治初期である。)、生産力が低く、口減らしをする必要があったのは想像に難くない。
なお、当時の口減らし方法として「間引き」がある。間引きは資料等で、時代により禁令が出たことが確認できることから、実際に行われていたことは間違いない(なお、間引かれた子供が河童や座敷童子に転じた、ともされている。)が、「姥捨て」については伝承は残るものの、資料や捨てた場所等は不明であるようである。
これは、私個人の推測であるが、かつて日本では尊属を殺すということは儒教的道徳観からタブーで、そのため、そのような不名誉な事実を残さないようにしたためではないか、とも考えられるのではないか(なお、刑法上では、平成7年(1995年)まで、尊属殺についての刑罰が規定されていて、尊属殺は通常の殺人よりも罪が重く規定されていた(死刑と無期懲役のみ。)。)。
もっとも、これはあくまで私個人の考えであり、そもそも「姥捨て」という習俗は存在しなかった、と考えることもできる。真相は闇の中であるが、この「デンデラ野」については、姥捨てのような事が行われたことを今に伝える貴重な存在ではなかろうか。
デンデラ野に設置された案内板。
デンデラ野に棄てられた老人達は、このような小屋を作り生活していたのだろうか。