1 概要
文政年間(1818年~1831年)のこと,奥州三春城下の小寺正左衛門は下役だが,その城勤めぶりは誠実だと噂され,そのため,三春小町と評判の高い三疋屋の娘いとが嫁いできた。
その後,いとは子を身ごもるが,十月十日を経過しても産まれず,いとの実家の人々も正左衛門も母子の身を案じた。産婆も首をかしげるばかりであった。
ある晩,いとは陣痛を訴えたので,正左衛門が産婆に走ろうとすると,事もなく赤子が産まれた。
しかし,赤子は父である正左衛門に飛び掛り食べ始め,そして母であるいとを犯した。
いとはその晩のうち,赤子を背負い小寺家を立ち去り,その後の消息は分からないという。
この赤子は鬼子である。
2 解説
鬼子とは,親に似ず,異様な姿で産まれた子供をいい,特に歯が生えた状態で産まれた子供のこととされる。俗信としては,鬼子は良くない,縁起の悪いものとして産まれた後に殺害したり捨てて誰かに拾ってもらうなどの事例が見られるという。
また,地域によっては,鬼子を放置すると,親子のうち一方が死ぬといわれていたという。